特定技能「漁業」の採用と成功の鍵:事業者向け注意点と安全管理ガイド
特定技能「漁業」の採用と成功の鍵:事業者向け注意点と安全管理ガイド
人手不足が深刻化する漁業分野において、特定技能を持つ外国人材は、事業の継続と発展に欠かせない貴重な存在です。しかし、彼らをただ「労働力」として受け入れるだけでは、採用は成功しません。
事業者が果たすべき義務の理解、そして何よりも大切な「安全」の確保。この二つが、外国人材が安心して長く働き、事業の真の力となるための鍵です。
本記事では、漁業分野で特定技能外国人の受け入れを検討している事業者様に向けて、採用前に必ず知っておくべき注意点と、命を守るための安全管理体制の構築について、具体的かつ実践的に解説します。
採用前に必ず確認!特定技能「漁業」受け入れ事業者の3つの義務
特定技能外国人を受け入れる事業者には、法令で定められた3つの大きな義務があります。これらは、円滑な受け入れの前提となる重要なポイントです。
義務1:漁業特定技能協議会への加入
まず、特定技能外国人を初めて受け入れてから4ヶ月以内に、水産庁が設置する「漁業特定技能協議会」に加入しなければなりません。この協議会は、制度の適正な運用や、受け入れ企業への必要な情報提供・指導を行うための組織です。加入は義務であり、怠った場合は受け入れができなくなる可能性があります。
義務2:労働・社会保険・税に関する法令の遵守
これは外国人材に限った話ではありませんが、労働基準法や最低賃金法、健康保険、厚生年金、雇用保険、労災保険といった各種社会保険、そして税に関する法令を正しく遵守していることが大前提となります。
義務3:外国人材への支援計画の作成と実施
受け入れる外国人材が、日本での仕事や生活に困ることがないよう、事業者は「1号特定技能外国人支援計画」を作成し、実施する義務があります。この支援には、住居の確保、日本語学習の機会提供、各種行政手続きの補助などが含まれます。これらの支援を自社で行うのが難しい場合は、国から認可を受けた「登録支援機関」に委託することも可能です。
命を守るための最重要課題:徹底すべき安全管理と労働災害防止策
漁業は、全産業の中でも労働災害の発生率が非常に高い、危険と隣り合わせの仕事です。特に、言葉や文化の違う外国人材を受け入れる際は、細心の注意を払った安全管理体制が求められます。
漁業で多発する労働災害とは?(海中転落・巻き込まれ)
漁業における死亡災害で最も多いのが「海中転落」、そして重傷災害で多いのが、網を巻き上げる揚網機(ネットホーラー)などに手や体を挟まれる「はさまれ・巻き込まれ」です。これらの事故は、船の揺れや悪天候、機械操作の誤りなど、様々な要因が重なって発生します。
法律で定められた必須の安全対策(ライフジャケット・複数人作業)
労働災害を防ぐため、法律で最低限の安全対策が定められています。
- ✅ ライフジャケットの常時着用: 船上での作業中は、必ずライフジャケットを着用させることが法律で義務付けられています。これは最も基本的な命綱です。
- ✅ 複数人での作業: 甲板上での作業は、危険が伴うため、原則として2人以上で行うか、作業を見守る監視員を配置する必要があります。
- ✅ 気象・海象情報の確認: 無理な出航は重大な事故に繋がります。常に最新の気象情報を確認し、安全を最優先した操業計画を立てることが重要です。
言葉の壁を越える安全教育の工夫(多言語教材の活用)
安全ルールをただ伝えるだけでは、外国人材には十分に理解してもらえない可能性があります。言葉の壁を乗り越えるための工夫が不可欠です。
- 多言語教材の活用: 厚生労働省などが、様々な言語に対応した安全衛生教育用の動画やイラスト教材を無料で提供しています。これらを積極的に活用しましょう。
- ビジュアルでの指示: 「危険」「注意」といったサインは、誰が見ても一目で意味がわかるイラストや色(赤・黄)を使って示しましょう。
- 実践的な訓練: 避難訓練や消火訓練など、いざという時のための訓練を、実際に体を動かしながら定期的に行うことが、安全意識の定着に繋がります。
「知らなかった」では済まされない!漁業特有の労働法規
漁業は、天候に左右される特殊な労働環境のため、労働基準法の一部が適用されないなど、特有のルールがあります。これを正しく理解し、労務管理を行うことが極めて重要です。
労働基準法の適用除外とは?(労働時間・休憩・休日)
漁業(船員法が適用される船員を除く)には、労働基準法に定められた労働時間、休憩、休日の規定が適用されません。これは、天候次第で操業スケジュールが大きく変わるためです。しかし、だからといって無制限に働かせて良いわけではなく、安全や健康への配慮は当然必要です。
船員法が適用されるケース
総トン数5トン以上の漁船などで働く場合は、「船員法」が適用されます。船員法には、労働時間や休日に関して独自の規定があり、労働基準法よりも手厚い保護が定められている場合があります。自社の漁船がどちらに該当するのか、必ず確認が必要です。
6次産業化における注意点(加工・販売事業)
近年、獲った魚を自社で加工・販売する「6次産業化」に取り組む事業者様も増えています。この場合、加工場や直売所で働く時間は、漁業の適用除外とはならず、通常の労働基準法が全面的に適用されます。労働時間や休憩、休日をきちんと管理する必要があるため、注意が必要です。
まとめ:安全は最大の投資。信頼関係が、事業の未来を創る
特定技能外国人を採用することは、事業者にとって多くのメリットをもたらします。しかし、そのメリットを最大限に活かすためには、法令を遵守し、何よりも彼らの「安全」を確保することが大前提です。
徹底した安全管理は、事故を防ぐだけでなく、「会社は自分たちのことを大切に思ってくれている」という従業員の信頼に繋がります。その信頼関係こそが、外国人材の定着を促し、事業の持続的な発展を支える最大の力となるのです。安全への投資は、未来への最も確実な投資と言えるでしょう。
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