介護分野で特定技能外国人を雇用する際の注意点と成功事例
2025年に32万人不足?介護業界の深刻な現状
日本の介護業界は、今、まさに岐路に立たされています。少子高齢化が加速する中、厚生労働省の推計によれば、2025年度には約32万人、さらに2040年度には約69万人もの介護職員が不足すると予測されているのです。実際に、2024年に入ってから介護事業者の倒産は急増しており、その多くが深刻な人手不足を原因としています。
この未曾有の危機を乗り越えるための最も有効な選択肢の一つが、特定技能制度を活用した外国人材の受け入れです。本記事では、特定技能外国人を介護分野で受け入れる際の具体的な注意点と、彼らが定着し、活躍するための成功事例を深く掘り下げて解説します。単なる労働力の確保に留まらない、未来への投資としての外国人雇用を成功させるためのヒントがここにあります。
【失敗しないために】特定技能「介護」受け入れ9つの注意点
特定技能外国人材の受け入れは、多くのメリットがある一方で、制度への無理解や準備不足が思わぬトラブルを招くことも少なくありません。ここでは、受け入れを成功させるために絶対に押さえておくべき9つの重要な注意点を解説します。
1. 雇用形態と労働条件:「日本人と同等以上」を具体的に
特定技能外国人とは、必ずフルタイムの直接雇用契約を結ぶ必要があります。派遣やアルバイトは認められません。そして最も重要なのが、**「報酬額が日本人と同等以上」**という規定です。これは単に最低賃金をクリアすれば良いという意味ではありません。同じ事業所で同様の業務に従事する日本人の給与水準や、経験年数、役職などを考慮し、公平な待遇を保証する必要があります。この点を曖昧にすると、後のトラブルの最大の原因となります。
2. 【2025年4月解禁】業務内容の拡大:訪問介護サービスへの道
これまで特定技能「介護」の業務範囲は施設サービスなどに限定されていましたが、深刻な人手不足に対応するため、2025年4月から訪問介護サービスへの従事が解禁されました。これは、事業者にとっても、キャリアアップを目指す外国人材にとっても大きな変化です。ただし、利用者宅で一人で対応する業務の特性上、従事するには以下の要件を満たす必要があります。
【外国人材に求められる要件】
- 実務経験: 原則として1年以上の実務経験が必要。
- 研修の修了: 介護職員初任者研修などを修了していること。
【受入れ事業者に求められる要件】
- 研修・OJTの実施: 同行訪問などのOJTを一定期間実施する義務があります。
- 利用者への説明と同意: 事前に利用者や家族へ十分な説明を行い、同意を得ることが必須です。
- サポート体制の構築: 緊急時に備え、ICTを活用して常に連絡が取れる環境の整備や、相談窓口の設置が求められます。
この要件を満たすことで、これまで不可能だった訪問介護分野での活躍の道が拓かれます。
3. 受入れ人数:自社の常勤介護職員数が上限
受け入れ可能な特定技能外国人の数には、「事業所単位で、日本人の常勤介護職員の総数を超えない」という厳格な上限があります。「人手が足りないから」と無制限に雇用できるわけではありません。自社の常勤職員数を確認し、計画的な採用を進めることが不可欠です。
4. 義務的支援の徹底:「支援計画」は定着の生命線
受け入れ企業には、特定技能外国人に対する**「支援計画」の策定と実行が法律で義務付けられています**。これは単なる書類作成ではありません。以下の10項目にわたる支援を、責任を持って行う必要があります。
- 事前ガイダンス:雇用契約や業務内容、日本での生活について、本人が理解できる言語で説明します。
- 出入国時の送迎:空港と事業所・住居間の送迎を行います。
- 住居確保・生活契約支援:連帯保証人になる、社宅を提供するなど、住居の確保をサポートし、銀行口座開設や携帯電話の契約などを支援します。
- 生活オリエンテーション:日本のルールやマナー、公共交通機関の使い方、災害時の対応などを説明します。
- 公的手続きへの同行:役所での住民登録や社会保障関連の手続きに同行します。
- 日本語学習機会の提供:日本語教室の情報提供や、学習教材の提供などを行います。
- 相談・苦情への対応:仕事や生活の悩みを、本人の母国語で相談できる体制を整えます。
- 日本人との交流促進:地域のイベントへの参加を促すなど、孤立を防ぐための機会を作ります。
- 転職支援:会社の都合で解雇する場合、次の職場を探すサポートを行います。
- 定期的な面談:支援責任者が、本人と定期的に面談し、労働状況や生活状況を確認します。
この支援体制の質こそが、外国人材の定着率を左右する最大の要因と言っても過言ではありません。
5. 言葉の壁:「翻訳」以上のコミュニケーションを
「申し送り」や「様子見」といった介護現場特有の曖昧な表現や、早口での指示は、外国人材を混乱させます。単に翻訳アプリを使うだけでなく、**「やさしい日本語」**を使って、短く、分かりやすい言葉で伝える努力が不可欠です。また、業務指示だけでなく、日常的な挨拶や雑談といった、インフォーマルなコミュニケーションを大切にすることが、信頼関係の構築に繋がります。
6. 文化の壁:「当たり前」の違いを乗り越える
時間を守ること、報告・連絡・相談を徹底すること、チームで協力すること。これらは日本の職場では「当たり前」かもしれませんが、文化によってはそうでない場合もあります。一方的に日本のやり方を押し付けるのではなく、なぜそれが必要なのか、背景にある考え方や文化を丁寧に説明し、相互理解を深める姿勢が求められます。
7. 行政手続きと協議会への参加:法令遵守の基本
特定技能外国人を受け入れるには、地方出入国在留管理局への各種届出に加え、分野ごとに設置されている**「協議会」への参加が義務**付けられています。これらの行政手続きを怠ると、法令違反となり、今後の受け入れが認められなくなる可能性もあります。専門家のアドバイスを受けながら、確実に行いましょう。
8. 転職の可能性:魅力的な職場環境が定着の鍵
特定技能外国人は、自身の意思で転職することが認められています。給与への不満、人間関係の悩み、キャリアアップの機会の欠如などが、主な転職理由です。「せっかく育てたのに」と考えるのではなく、彼らが「ここで働き続けたい」と思えるような、公平な待遇、良好な人間関係、そしてキャリアアップの道筋を示せているか、常に自社を振り返ることが重要です。
9. 受入れコストの把握:想定外の出費を防ぐ
人材紹介会社への手数料や、渡航費、当面の生活費、そして支援計画の実行にかかる費用など、受け入れには様々なコストが発生します。特に、支援を登録支援機関に委託する場合は、その費用も考慮に入れる必要があります。事前に必要なコストをリストアップし、予算を確保しておくことで、後の資金繰りの問題を未然に防ぎます。
【学ぶべきはココ】特定技能「介護」受け入れの成功事例3選
理論だけでなく、実際の成功事例から学ぶことは非常に重要です。ここでは、特に参考となる3つの事例をご紹介します。
事例1:手厚い「伴走型支援」で定着率90%超を実現したA施設
地方都市にあり、職員の高齢化に悩んでいたA施設。彼らは「採用」よりも「定着」を最重要課題と位置づけました。採用段階では、オンライン面接を複数回実施し、本人の希望や性格を深く理解することに時間をかけました。入社後は、支援担当者が文字通り「伴走」。役所の手続きや銀行口座の開設はもちろん、体調を崩した際には病院に付き添い、休日の買い物に一緒に出かけるなど、家族のように親身なサポートを徹底。この手厚い支援が安心感を生み、結果として定着率90%以上という驚異的な数字を達成しています。
事例2:「教える」ではなく「共に学ぶ」姿勢が職場を変えたB施設
B施設では当初、日本人職員が外国人材に「仕事を教えてやる」という意識が強く、コミュニケーションが一方通行になりがちでした。そこで施設長は、「彼らから母国の文化や介護について学ぶ」という研修を企画。これが転機となりました。外国人材が母国の遊びを利用者と楽しむレクリエーションを企画したり、日本人職員が彼らから簡単な挨拶を学んだりするうちに、双方向のコミュニケーションが活性化。「教える・教えられる」という関係から「共に働く仲間」という意識が芽生え、職場全体の雰囲気が劇的に改善されました。
事例3:明確なキャリアパス提示で「介護福祉士」を育成するC法人
複数の施設を運営するC法人では、特定技能での5年間を、単なる労働期間ではなく「キャリアアップのための助走期間」と位置づけています。入社時に、国家資格である**「介護福祉士」の取得を最終目標とする明確なキャリアパス**を提示。資格取得に向けた勉強会の定期開催や、実務経験豊富な職員を指導役につけるなど、具体的なサポートを惜しみません。この取り組みにより、外国人材は高いモチベーションを維持し、実際に毎年数名が介護福祉士試験に合格。法人全体のサービス品質の向上にも大きく貢献しています。
【反面教師】よくある失敗事例とその対策
成功事例の裏には、数多くの失敗事例が存在します。同じ轍を踏まないために、典型的な失敗パターンとその対策を学びましょう。
失敗例1:「聞いていた話と違う」- 契約内容の不一致
事例: 給与や休日、業務内容について、来日前に聞いていた説明と実際の条件が異なっていたため、不信感が募り、早期離職に繋がってしまった。
対策: 雇用契約書や条件書は、必ず本人が十分に理解できる母国語に翻訳し、双方で内容を確認・署名すること。曖昧な点は残さず、事前にすべてクリアにすることが鉄則です。
失敗例2:「職場で孤立してしまう」- コミュニケーション不足
事例: 日本人職員が業務の忙しさから、必要最低限の会話しかせず、外国人材が職場で孤立。精神的に不安定になり、出勤できなくなってしまった。
対策: 業務指示だけでなく、意識的に挨拶や声かけを行うこと。また、定期的にランチ会を開くなど、業務外でのコミュニケーションの機会を設けることも有効です。
失敗例3:「相談できる人がいない」- 支援体制の形骸化
事例: 支援担当者が名ばかりで、実際には多忙で相談に乗ってくれない。悩みを抱え込んだまま、ある日突然、失踪してしまった。
対策: 支援担当者には、支援業務に充てる時間を業務として明確に確保すること。また、担当者一人に任せるのではなく、複数の相談窓口を設けたり、外部の登録支援機関と連携したりするなど、組織としてサポートする体制を構築することが重要です。
まとめ:特定技能外国人は「コスト」ではなく「投資」である
特定技能外国人材の受け入れは、単に人手不足を補うための「コスト」として捉えるべきではありません。彼らが持つ多様な文化や価値観は、組織に新しい風を吹き込み、イノベーションを生み出す可能性を秘めています。そして、彼らが日本で安心して働き、成長できる環境を整えることは、巡り巡って自社のサービス品質の向上と、持続可能な経営に繋がる「未来への投資」です。
言語や文化の壁を乗り越え、彼らを真の「仲間」として迎え入れること。その真摯な姿勢こそが、特定技能制度の活用を成功に導く、唯一かつ最も重要な鍵となるでしょう。
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